胸の筋力トレーニングの代表的な種目であるベンチプレス。
特に男性の方は、たくましい胸板を手に入れるべく、ベンチプレスにはげんでいると思います。
ただ、このベンチプレス、肩甲骨を寄せながらやっている人や、そうやるように指導しているトレーナーが多く見受けられます。
もちろん肩甲骨を寄せながらやることに、きちんとした理由があるのなら良いのですが、ただなんとなく寄せているのであれば、やめた方がいいです。
なぜなら、肩甲骨を寄せながらベンチプレスをおこなうと、肩甲骨や肩周りの動きが悪くなり、最悪の場合ケガに繋がるからです。
ちなみに、ここで書いてる肩甲骨を寄せないは、ベンチプレスで意識的に肩甲骨を寄せてはいけないということで、自然に寄るぶんには問題ないので、その辺りお間違えのないようにお願いします。
目次
ベンチプレス時の肩の動き
ベンチプレスの動きは、解剖学的に言えば、
- 肩関節の水平内転(腕を横に上げた状態で前に持ってくる動き)
- 肩甲骨の外転(肩甲骨を背骨から離す動き)
⇅
- 肩関節の水平外転(腕を横に上げた状態で後ろに引く動き)
- 肩甲骨の内転(肩甲骨を背骨に近づける動き)
を交互におこなっています。
前者がバーベルを押す時で、後者がバーベルを胸に近づける時の動きです。
そして、肩関節の水平内転と肩甲骨の外転時に使われる筋肉が、ベンチプレスでメインで鍛えられる大胸筋と、肩の前の三角筋前部、脇にある前鋸筋。
肩関節の水平外転と肩甲骨の内転時に使われる筋肉が、肩の後ろの三角筋後部、肩のインナーマッスルの棘下筋と小円筋、肩甲骨の間にある僧帽筋と菱形筋が使われます。
このように、解剖学的には動きにより使われる筋肉が異なってきますが、ベンチプレスは重りを扱うため、肩関節の水平内転と肩甲骨の外転時に大胸筋は縮んだ状態で力発揮をし、
肩関節の水平外転と肩甲骨の内転時に大胸筋は伸びた状態で力発揮をします。
では、この状態で肩甲骨を寄せながらベンチプレスをおこなうと、どうなるのでしょうか?
ベンチプレスを肩甲骨を寄せたままおこなうと…
肩甲骨を寄せたままということは、肩甲骨の間にある僧帽筋や菱形筋を、緊張させた状態のままでベンチプレスをおこなうことになります。
つまり、大胸筋と同じ、動きに合わせて、縮みながら力発揮と伸ばしながら力発揮を交互に繰り返すということです。
この意識でベンチプレスをおこなうと、大胸筋と僧帽筋・菱形筋は緊張しっぱなしになり固まります。
先程、解剖学のお話をしましたが、大胸筋と僧帽筋・菱形筋の機能は全く逆です。そんな相反する筋肉が同時に固まってしまうと、肩甲骨と肩関節を滑らかに動かすことができない、共縮を引き起こしてしまいます。
ここで「共縮」という言葉を始めて聞く人もいると思うので、共縮について、もう少し説明していきましょう。
共縮(きょうしゅく)とは、簡単に説明すると、関節を動かす筋肉(曲げる筋肉と伸ばす筋肉)が同時に働いてしまうことです。
例えば、肘を曲げる時は、力こぶの上腕二頭筋に力が入り、反対側の腕の裏の上腕三頭筋がゆるんだ状態で伸びるため、肘を滑らかに曲げることができます。
ですが、共縮が起こると、上腕二頭筋に力が入ると同時に、上腕三頭筋にも力が入ってしまうため、肘をスムーズに曲げることができなくなってしまいます。
肩甲骨を寄せながらベンチプレスをおこなうと、これと同じことが起こってしまうため、肩甲骨と肩関節がスムーズに動かなくなり、場合によってはケガに繋がってしまうのです。
肩甲骨を寄せない代わりに意識したいこと
私が考える、肩甲骨を寄せながらベンチプレスをする理由は2つあります。
1つは、肩甲骨を寄せると背骨を反らせやすくなり、背骨を反らせると下半身の力も使えるようになるため、ベンチプレスの重量が上がるから。
そしてもう1つは、肩がすくまないように安定させられるからです。
ですが、これができたとしても、共縮の影響で後々動きが悪くなり、パフォーマンスの低下やケガに繋がってしまったら、まるで意味がありません。
でも、ベンチプレスはやりたい…
そんな方は、ベンチプレスをおこなう時に、肩甲骨を寄せる意識ではなく、肩を下げて、脇を締める意識をしてみてください。
肩を下げる動きでも背骨は反れますし、脇を締めると前鋸筋が機能します。
前鋸筋は脇腹の外・内腹斜筋と繋がりがあり、内腹斜筋はインナーマッスルの腹横筋と繋がりがあるため、前鋸筋を機能させながらベンチプレスをおこなえば、背骨を反りつつそのまま体幹を安定させられるため、下半身の力を効率よく使うことができます。
更に、脇を締めれば、肩もすくまないので肩周りは安定します。
そして、前鋸筋は大胸筋と一緒に機能する筋肉のため、ここを使うことで共縮になることもありません。
このように機能的なことを考えると、ベンチプレスをする時は、肩甲骨を寄せるより、肩を下げて脇を締め、前鋸筋を機能させることを私はオススメします。
下記に、ベンチプレス時に前鋸筋を機能させられるようにするためのワークも載せてあるので、私の考えに共感していただいた方は、是非このワークを実践しながらベンチプレスに取り組んでください。
ベンチプレスで前鋸筋を機能させるためのワーク
わきのクロスポイント
わきのクロスポイントで前鋸筋を刺激して、機能しやすい状態にします。
- 腕の付け根(背中側)触る。
- そのまま腕を前後に各5回ずつ回す。
詳細な刺激方法はLINE@登録者限定動画をご確認ください。
前鋸筋を動かす①
- 反対の手でわきを触り、肩を下げ、わきを締める。
- わきを締めたまま腕を前に突き出す。
- これを前鋸筋を使っている感覚(わきやわきの下の疲労感)がわかるまでおこなう。
前鋸筋を動かす②
- 座った状態で両わきとも感覚がわかったら、腕を地面につけ、先ほどと同じように反対の手でわきを触り、肩を下げ、わきを締める。
- わきを締めたまま腕を前に突き出し、地面を押す。
- これも前鋸筋を使っている感覚(わきやわきの下の疲労感)がわかるまでおこなう。
プランク
前鋸筋を動かす①②で前鋸筋を使う感覚がわかってきたら、前鋸筋を使った体幹トレーニングのプランクをおこないます。
- 手の位置は肩幅で、四つん這いになる。
- わきを締めたまま、腕を前に突き出し、地面を押す。
- その状態を維持したまま、膝を伸ばしプランクに入る。
- 身体をわきで支える意識で、30秒〜1分キープしていく。
腕立て伏せ
プランクにも慣れてきたら、そこから腕立て伏せに入ります。
- わきを締めたままプランクの体勢に入ったら、そこから腕を外側に広げる。
- 肘を曲げて腕立て伏せをする。
- 肘を曲げるとわきが緩んで、前鋸筋が効きづらくなるので、わきを締める感覚を消さないように、しっかり意識しながらおこなう。
軽いベンチプレスであれば、ここまできちんとできれば、ベンチプレス時に前鋸筋を使うことができます。
ですが、高重量になると、もっと感覚を強めなければ前鋸筋を使うことはできません。
そこで、高重量を扱う方は、立甲ができるまで【完全版】を読むことをオススメします。
ベンチプレスで高重量を扱う人が、前鋸筋を使えるようにするための記事
立甲(りっこう)とは、一言でいうと肩甲骨が浮いた状態。体幹から肩甲骨が離れた状態の事を言います。
ブログでもちょくちょくご紹介しているので、ご存知の方もいると思いますが、この立甲ができると前鋸筋の感覚がかなり強くなります。
高重量のベンチプレスは、身体にかなりの負担がかかるため、それに見合った前鋸筋の感覚や強さがなければ、前鋸筋を使ったベンチプレスはできません。
そのため、立甲ができるのは必須条件。
もちろん立甲ができればどんな高重量でも前鋸筋が使えるわけではありません。立甲ができたら、その後も立甲の感覚を保ったままプランクや腕立て、軽い重量から徐々に重量を上げていくベンチプレス、
などトレーニングを積まなければなりません。ですが、どれも結局は立甲ができることが前提条件です。
そのため、その第一歩として、立甲ができるまで【完全版】読んで、立甲のメカニズムを理解しながら、ここに記されている詳細な練習方法実践して、立甲をできるようになってください!
そしてベンチプレスで鍛えた筋肉を、効率よく使える身体を手に入れましょう!
まとめ
- ベンチプレスを肩甲骨を寄せながらおこなってはいけない。
- 肩甲骨を寄せながらおこなうと共縮を起こし、肩甲骨や肩関節の動きが悪くなる。
- 肩甲骨を寄せない代わりに、肩を下げて、脇を締め、前鋸筋を機能させる。
- 肩を下げても背骨は反れるため、下半身を使えるし、肩も安定させられる。そして大胸筋と一緒に機能するため、共縮を起こすこともない。
- 前鋸筋を機能させるワークで、軽いベンチプレスであれば、前鋸筋を機能させながらおこなうことができる。
- 高重量を扱う時に前鋸筋を機能させるには、立甲をできることが必須条件。